スポーツ用品店にとって、ランニングイベントは商品を使う機会を提供しながら、顧客との接点を増やす手段になる。店頭では分かりにくいシューズの使用感を走って確かめ、スタッフに相談する。その経験が商品選びを支え、次の来店にもつながる。アンダーアーマーが11月5日、あべのキューズモール2階に開く「アンダーアーマーブランドハウスあべの」も、物販に無料の運動プログラムを組み合わせる店舗だ。出店の意味を考えるうえでは、品ぞろえとともに、地域のスポーツ愛好者と継続して接する仕組みに注目したい。
もっとも、その背景を全国的なランニング人口の拡大だけで説明することはできない。笹川スポーツ財団の2024年調査では、年1回以上ジョギング・ランニングを行う20歳以上の推計人口は758万人で、2022年の877万人から減少した。一方、20大都市の実施率は前回調査から上昇している。2026年の状況を直接示す数字ではないが、全国の参加人口と都市部の需要を分けて捉える必要がある。
そうしたなか、店舗を起点に商品体験と交流の機会を設ける事例がある。東京・御徒町のアートスポーツ本店では、10月17・18日、24・25日の2週末に「RUNNING EXPO 2026」を開催した。公式案内では40以上のブランドを掲げ、前半の2日間は店前のパンダ広場も会場に使用。最新シューズを履き比べ、試走レーンで走って選ぶ機会を設け、店内ではウェアやサプリメントの相談などを組み合わせた。17日には、同店を会場とするサロモンのコミュニティランも設定されていた。
こうした催しは、商品への関心を実際の使用経験へ進められる点で、販売との接続が明確だ。ランニングシューズは、足を入れたときの感触だけでなく、走行中の反発や安定感、自分のペースとの相性も選択を左右する。メーカーには自社製品の特徴を体感してもらう機会となり、店舗には購入を検討する人の疑問に答える機会となる。参加者にとっても、仕様や評判を読むだけでは得られない判断材料を持ち帰れる。
さらに、継続して開催する場合には、買い替えの予定がなくても店へ足を運ぶ理由をつくれる。練習の相談や参加者同士の交流が重なれば、店は商品を購入する場所に加え、走る習慣を支える場所にもなり得る。ただし、開催しただけで購入や再来店が増えるわけではない。参加後の相談や再参加、購買につながるかまで見て、販促としての効果を判断する必要がある。
アンダーアーマーも、既存店で無料の「UAコミュニティクラス」を展開してきた。グランフロント大阪南館にあるブランドハウス大阪も開催拠点の一つであり、あべの店は、こうした顧客との接点を大阪の別の商業集積へ広げる出店と捉えられる。公式案内によると、関西では2店舗目のブランドハウスとなる。
専門店と直営店では、同じランイベントでも商品提案の役割が異なる。アートスポーツのような複数ブランドを扱う店は、履き比べを通じて顧客に合う商品を探すことができる。一方、単一ブランドの直営店は、自社のシューズやウェアを使う体験を通じて、その特徴や用途への理解を深めやすい。ランイベント自体の珍しさよりも、体験と接客をどう結び付けるかが、店舗の個性になる。
今回の出店先には、その違いが問われる競争環境もある。あべのキューズモールの同じ2階には、オン、ホカ、ナイキなどを扱うオッシュマンズが入り、近隣のあべのHoopにはスーパースポーツゼビオがある。スポーツ用品を比較して買える商圏で、アンダーアーマーの直営店が加わる。新店には、ブランドを決めて来店する顧客への対応とともに、まだ購入候補を絞っていない人が自社製品を試す入口をつくる役割も期待される。
あべの店はトレーニングやランニングを中心に、メンズ・ウィメンズのアパレル、フットウェア、アクセサリーを展開し、直営店限定商品やカスタマイズサービスも用意する。11月14日に予定する初回のコミュニティクラスは、店舗周辺を3〜5km走る内容だ。20歳以上の先着10人を対象に、シューズとアパレルの無料貸し出しや、ギア選びの助言を行う。
商業施設側から見れば、こうした店舗の価値は売場の充実に加え、買い物以外の目的で来館するきっかけをつくれる点にある。運動の前後に飲食や他店の利用が生まれる余地もあるが、初回10人という規模から、館全体への大きな集客効果を見込むのは早い。まず問われるのは、参加者が店に親しみ、相談や次の参加のために戻ってくるかどうかだ。
そのため、施設運営ではイベントの開催数だけでなく、集合場所や荷物の預かり、館外への動線など、継続して運営できる条件も重要になる。ブランド名や商品構成に加え、地域の人が繰り返し訪れる活動を持つかどうかも、テナントを評価する視点になるだろう。あべの店の出店は、ランニングをきっかけとする小さな接点を、継続的な来店と購買へ育てられるかを見る事例となる。以下、株式会社ドームのプレスリリースから画像を引用。
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