京都の老舗にとって、受け継いだ技を誰に、どのように届けるかは、時代とともに変わる。香老舗の薫玉堂と京念珠専門店のぜにやは2026年11月14日、八坂神社前の京町家に、それぞれ新店と改装店を開く。寺院を支えてきた商いを土台に、日常で使える商品を広げてきた両店が、祇園で訪日客との接点を強める。
両店の歴史は、西本願寺前でつながっている。薫玉堂は1594年、本願寺出入りの薬種商として創業。香木や香材の研究を重ね、寺院へ香を納めてきた。1874年には、同店から念珠・打敷部門を任された負野弥七が、ぜにやの商いを始めた。香と念珠という異なる品物を扱いながら、祈りの場を支える技を磨いてきた関係にある。
その薫玉堂は、早くから現代の暮らしへ向けたブランドづくりに取り組んでいる。2014年にリブランディングを始め、中川政七商店やクリエイティブディレクターの水野学氏らと検討を重ね、2016年1月に新たなブランド展開を始動した。2017年には、京都の四季を題材にした香りの提案や、線香づくりの体験教室も行っていた。
売り場も広がった。現在は京都本店に加え、KITTE丸の内、東京ミッドタウン、ニュウマン横浜、心斎橋PARCOなどに店舗を構える。寺院や香の愛好家との関係を保ちながら、都市で買い物をする人にも香りを選んでもらう機会を増やしてきた。西本願寺前の本店でも、仏前で使う商品と、部屋や衣類の香りを楽しむ商品をそれぞれ扱っている。
ぜにやにも、用途と買い方を広げてきた歩みがある。各宗派の念珠に加え、天然石のブレスレットを展開し、本店では職人の手仕事を見ながら、カスタマイズや修理を相談できる。素材や仕立てを説明する接客そのものが、専門店の価値になっている。祇園店は2009年に開業しており、今回が同地区への初進出ではない。
この二つの商いを、一つの建物で提案し直すのが今回の計画だ。大正時代の町家を改装し、1階に薫玉堂、2階にぜにやを配置する。薫玉堂は香袋や線香を作る調香体験を用意し、ぜにやは客とスタッフが対話しながら念珠を選べる売り場を設ける。訪日客向けのギフトや、自分のために購入する商品も意識する。
ここで意味を持つのが、八坂神社前という立地である。四条通の東端に位置する八坂神社は、祇園を歩く人にとって目印となる存在だ。観光で訪れた場所のすぐ近くで、京都の商いと出合える。最初から香や念珠を買う予定がなくても、香りや素材に触れ、自分の暮らしで使う場面を思い描くきっかけになるだろう。
香りは好みから、身につける念珠は色や素材から選び始められる。その先に、調香や仕立ての技、祈りとの関わりを伝える接客がある。こうした順序なら、商品の背景に詳しくない来店客にも手に取る理由を示せる。外国人客への訴求でも、創業年の古さを伝えるだけでなく、帰国後にどう使えるかまで結びつけることが重要になる。
一棟に二店が入る効果も、品数が増えることだけではない。香りを楽しむ買い物から、素材を選んで身につける買い物へと関心が広がれば、京都のものづくりを異なる角度から知る機会になる。ただし、相互送客が自然に生まれるとは限らない。階をまたいで見て回りたくなる案内や、用途と背景を理解できる接客が、二店を組み合わせる価値を左右する。
今回の出店は、都市の商業施設や既存の祇園店で広げてきた顧客との接点を、さらに更新するものといえる。寺院向けの品物を作る技術を持ちながら、暮らしの香りや装いとして選ぶ入口も用意する。京都らしさを支えるのは、町家の景観とともに、受け継いだ技を今の人が買いたいと思う商品へと育てる商いである。薫玉堂とぜにやは、その積み重ねを祇園から世界の顧客へ届けようとしている。以下、株式会社負野香玉堂のプレスリリースから画像と店舗概要を引用。
店舗概要
グランドオープン:2026年11月14日(土)
所在地:〒605-0073 京都市東山区祇園町北側295
交通:京都市バス 祇園バス停より徒歩1分 八坂神社西楼門前、
京阪本線 祇園四条駅より徒歩約5分/阪急京都線 祇園河原町駅より徒歩6分
営業時間:10:00 ~ 18:00
定休日:水曜日
店舗デザイン:ABOUT 佛願 忠洋
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