都市と商業|湘南2026

湘南の商業を海岸線に沿って眺めると、鎌倉、藤沢、茅ヶ崎、平塚が一続きの市場に見える。しかし、買い物の行き先は海に沿って決まるわけではない。日々の用事を済ませる駅前と、時間をかけて訪れる大型施設では、客を集める範囲も理由も違う。その違いが最もはっきり表れるのが、茅ヶ崎と辻堂の関係だ。

ラスカ茅ヶ崎は、茅ケ崎駅を使う人と周辺住民の買い物を受け止める。食品売場だけでなく、衣料、雑貨、飲食、生活サービスまでを駅直結の建物に重ねている。近くには、そよら湘南茅ヶ崎とイオン茅ヶ崎中央ショッピングセンターもある。茅ヶ崎の強さは、隣の市から休日客を大量に呼び込むことより、地元の人が普段の買い物のために市外へ出なくても済むことにある。ラスカの充実を、広域集客力と取り違えてはいけない。

一駅東の辻堂では、テラスモール湘南が別の役割を担う。開業時に運営側が設定した商圏は、藤沢・茅ヶ崎を中心とする半径10キロ圏に加え、鉄道沿線の小田原から大船・鎌倉までだった。開業初年度は来館者の約4割が鉄道を利用したという。茅ヶ崎市民にとって、日常は地元の駅前で済ませ、より多くの店を見たい日は辻堂へ向かうという選択が成り立つ。両施設は客を奪い合うだけの関係ではなく、買い物の頻度と目的によって使い分けられている。ただし、この来館者構成は開業初年度の数字であり、現在の利用割合を示すものではない。

相模川を渡った平塚にも、駅前の日常商業と広域施設の重なりがある。ラスカ平塚に加え、平塚駅から徒歩圏には、ららぽーと湘南平塚が立つ。国道1号・129号にも近い立地に開業時247店を集め、三井不動産はリージョナル型ショッピングセンターとして開発した。2023年には店舗、フードコート、屋外広場を改装している。平塚を語る際、ららぽーとは単なる「市内にある大型店」ではない。駅周辺の商業と車利用の広域需要を結びつける、平塚側の主要な集客装置である。

さらに北部の大神地区には、THE OUTLETS SHONAN HIRATSUKAがある。海辺のリゾートを思わせる名称とは異なり、立地は国道129号沿いの内陸部だ。開業時の約150店で、運営側は車45分圏と国内外の観光客を基本商圏に設定した。ららぽーとより広い範囲から、アウトレットで買うという目的を持つ客を呼ぶ構想である。店舗数が少ないことだけで集客不振とは断定できない。一方、広い商圏を設定するほど、遠方からその施設を選んで訪れる理由が問われる。平塚では、ららぽーとが日常から休日までを幅広く受け止め、アウトレットが目的買いを狙うという役割の違いを見なければならない。

相模川は、この施設配置を読むうえで重要な境目になる。茅ヶ崎の日常の買い物先と、平塚の日常の買い物先は、川を挟んでそれぞれ形成される。一方、大型施設へ行く日は川を越える選択もある。川によって商圏が完全に分断されるのではない。近くで済ませる買い物では地域ごとの中心が効き、目的を持って出かける買い物では施設の商圏が重なるのである。平塚以西を小田原まで一つの商圏と決めつけることもできない。小田原側には独自の商業集積があり、品目や移動手段ごとの購買先は、別途確認が必要だ。

この構図のなかで、最も難しい立場にあるのが藤沢駅前だ。鉄道の結節点に商業施設が集まる一方、同じ藤沢市内の辻堂には、広域から買い物客を呼ぶテラスモール湘南がある。藤沢市は南口391地区の再開発を都市計画決定し、駅周辺の再整備を進めている。ただし、駅前商業の売上減少や来街者減少を示す資料は確認できておらず、「衰退した」と数字上の事実として断定はできない。確かなのは、再開発後の商業が辻堂と同じ役割を目指すなら、すでに強い競争相手が身近にいるということだ。

鎌倉は、さらに異なる市場である。駅から商店街や観光地へ歩くこと自体が来街の目的になり、商業が街路に広がる。湘南という名前は各地に共通していても、鎌倉の観光客が海沿いを移動して茅ヶ崎や平塚の大型施設で買い物をしているとは確認できない。共通の地域イメージを、そのまま一つの購買商圏と見なすことはできない。

湘南の商業は、中心を一つに集約しなくても成立している。茅ヶ崎ではラスカを核とする駅前が足元の消費を支える。辻堂のテラスモールは鉄道で届く広域の買い物先となり、平塚ではららぽーとが駅周辺と幹線道路の双方を生かす。アウトレットは、さらに広い車の商圏へ挑む。施設の規模を比べるだけでは見えないのは、地元の客を毎日迎える力と、遠くの客に来訪を決意させる力は別物だという点である。

その違いは、藤沢駅前の再開発にも重い問いを投げる。新しい建物に多くの店を入れるだけでは、辻堂との違いは生まれない。藤沢駅には乗り換え、仕事、暮らし、江の島方面への移動が集まる。その人々が駅を通過するだけでなく、駅前で時間を使い、街を歩く理由をつくれるか。茅ヶ崎が日常を守り、辻堂と平塚が広域を取りに行く湘南で、藤沢駅前に必要なのは「もう一つの大型モール」ではなく、結節点であることを商業と街の回遊に変える構想だ。