時計店が蕎麦FC第1号店を運営 港北みなも「十割蕎麦 たもつ」が示す住宅地SCの勝ち筋
ヴィンテージ時計の販売・修理・買取を手がけるファイアーキッズが、飲食事業へ踏み出す。そば粉100%の十割蕎麦ブランド「十割蕎麦 たもつ」は、2026年7月18日、横浜市都筑区の港北みなも1階にグランドオープンする。リリースでは健康志向やグルテンフリーへの関心、乱切り十割蕎麦、鳥羽周作シェフ監修の「鶏せいろ」が打ち出されている。ただ、この出店の面白さは、話題性のある蕎麦店が横浜にできることだけではない。時計ビジネスの企業が、FC展開を見据えた新ブランドの第1号店オーナーとして参入した点にある。
「たもつ」を展開するこむぎのは、同ブランドを今後フランチャイズ展開を通じて全国拡大する新ブランドと位置づけている。ファイアーキッズは1995年創業のヴィンテージ・アンティークウォッチ専門店で、「価値あるものを未来につなぐ」という企業コンセプトを掲げる企業だ。こむぎの側の発表では、同社が十割蕎麦も守り広めるべき日本文化の一つと捉え、現代のテクノロジーを掛け合わせて価値を再評価する「たもつ」の理念に共鳴したと説明されている。時計、刀、農産物、蕎麦という並びは一見遠い。しかし、職人性の高い価値を現代の仕組みに乗せて残すという意味では、ファイアーキッズの事業観と接続している。
さらに興味深いのは、1号店の立地である。十割蕎麦、健康志向、シェフ監修という要素だけを見れば、青山や表参道のような都心感度型の場所で、グルメ好きや高感度層に向けて打ち出す選択もあり得た。だが「たもつ」が選んだのは、横浜市営地下鉄のセンター北駅・センター南駅から徒歩5分、1,000台収容の大型駐車場を持つ港北みなもだった。駅前一等地の瞬間的な話題化ではなく、住宅地、車利用、家族利用、週末利用が重なる商業施設で、日常食として成立するかを見る立地である。
この選択は、決して蕎麦需要のない場所への冒険ではない。センター北周辺には、手打ち蕎麦の「ゆかりな」、昼のみ営業でコース型の蕎麦を出す「越廼」、モザイクモール港北の「味奈登庵」、ノースポート・モールの「二八蕎麦 久右衛門」など、性格の異なる蕎麦店が存在する。ゆかりなは店内自家製粉と手打ちを掲げ、味奈登庵はモザイクモール港北の1階フードコートで低価格とボリュームを打ち出し、久右衛門はノースポート・モール3階で店内製粉・店内製麺を訴求している。つまり港北ニュータウンには、本格志向の蕎麦も、商業施設内の日常型蕎麦も、すでに受け入れられてきた土壌がある。
だからこそ「たもつ」の勝負は、未開拓地の開拓ではなく、既存需要のある場所でどのポジションを取るかにある。老舗的な手打ち蕎麦でも、フードコートの低価格蕎麦でもない。十割蕎麦の本格感を残しながら、最新製麺機による安定品質、57席の店舗、平日夜までの営業時間、家族や買い物客が使いやすい商業施設立地に落とし込む。この設計が機能すれば、「たもつ」は一部の食通が目的来店する蕎麦店ではなく、郊外住宅地のSCで再現可能なFC型蕎麦ブランドとして見せられる。
ファイアーキッズにとっては、時計とは異なる領域への新規事業である一方、価値あるものを次世代へ残すという文脈では連続性がある。こむぎのにとっては、話題性だけでなく、住宅地商圏での再現性を示す1号店になる。港北みなもへの出店は、都心の感度勝負を避けた消極策ではない。すでに蕎麦の潜在需要が見える街で、本格性と日常性を両立できるかを試す、かなり現実的な一手である。以下、同社のプレスリリースから画像を引用。
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