ライフスタイル型と量販型──日本発2ブランドのアジア戦略に見る海外進出の現在地
商業施設テナントの海外展開が加速するなか、タイプの異なる2つの日本ブランドがアジアの主要都市に新たな拠点を開設した。ひとつは、料理教室を中核事業とするABCクッキングスタジオ。もうひとつは、日本最大級の家具・生活雑貨チェーンであるニトリである。それぞれが進出したのは、香港・銅鑼湾のハイサンプレイスと、フィリピン・マニラのラッキーチャイナタウン。いずれも都市中心部の大型商業施設であり、周辺人口・観光需要・集客力に優れたロケーションだ。2社の動向を比較することで、近年の海外出店のスタイルと商業施設が果たす役割の一端が見えてくる。
まずABCクッキングスタジオは、6月7日、香港屈指の高感度エリアである銅鑼湾の「Hysan Place(ハイサンプレイス)」7階に新スタジオを開設。同施設は、若年層から富裕層ビジネスパーソンまでが訪れる複合商業ビルで、アパレル、雑貨、カフェなど洗練されたテナント構成が特徴だ。ABCの新スタジオは、木やガラスといった自然素材を活かした温もりある空間設計がなされ、ガラス張りの外観から調理中の活気を一望できる構成。施設が提供する「体験」「居心地」との親和性を強く意識した導入といえる。ABCはこれまでにも香港、台湾、東南アジア各国への出店を重ねてきたが、今回の立地は中でもブランド訴求力を高める戦略的拠点と位置づけられる。
一方、ニトリは6月12日、マニラの「Lucky Chinatown(ラッキーチャイナタウン)」にフィリピン5店舗目を開設する。同モールはアジア最古の中華街エリアであるビノンド地区に位置し、ショッピング、グルメ、カルチャーを融合した観光拠点でもある。700坪規模の店舗は家具・インテリア・生活雑貨を一体で展開し、「お、ねだん以上。」のコストパフォーマンスを武器に現地中間層からの支持を拡大している。IKEAが進出している同市場において、価格と品ぞろえでローカルニーズに最適化した展開を継続しており、同社のドミナント戦略がASEAN圏に浸透しつつあることがうかがえる。
注目すべきは、両者とも「大型商業施設のテナント」という立ち位置を活用しながらも、その導入目的や空間設計、ターゲット設定が大きく異なる点にある。ABCは「暮らしの質」や「食の楽しさ」といったソフトな価値体験を、ニトリは「生活の利便性」や「価格訴求」といったハードな日常機能を主軸に展開する。つまり、同じ“ライフスタイル”を扱う業態でありながら、そのアプローチは真逆である。
また、出店先となるモールも両者の性格を如実に反映している。Hysan Placeは洗練された若年層・都市住民向け、Lucky Chinatownは観光客を含む広域集客型のマス商業施設であり、それぞれが提供する体験や商品との親和性が高いことが共通点といえる。
いま、商業施設にとって重要なのは、テナント単体の集客力だけではなく、「施設の価値観とどう共鳴し合えるか」である。今回の2ブランドの出店は、業態の違いを超えて、商業施設がどのように“場”をつくり、体験や生活提案の拠点として機能しているかを示す事例といえるだろう。海外進出という文脈の中で、こうしたローカルとの融合がテナント選定の新たな基準となりつつある。以下、株式会社ニトリホールディングスと株式会社ABC Cooking Studioのプレスリリースから店舗概要と画像を引用。
【店舗概要】
・店名 :NITORI Lucky Chinatown店 (ニトリ ラッキーチャイナタウンてん)
・所在地 : B10 2nd Floor Lucky Chinatown Imperial Wing Reina Regente St, Binondo,
Manila, 1006 Metro Manila
・店舗面積:約700坪
・開店日 :2025年6月12日(木)オープン
・営業時間:10:00 – 21:00
◆店舗概要
店 舗 名:ABC Cooking Studio Hysan Place Studio
所 在 地:Shop705-708, 7/F, Hysan Place, 500 Hennessy Road, Causeway Bay, Hong Kong
営業時間:10:00~22:00
定 休 日:施設休業日に準ずる