都市型駅ビル「シァル」各館で新店・リニューアル続々 合併で誕生した新会社による沿線型SC戦略に注目
2024年4月、JR東日本グループ内で長年にわたり沿線駅ビルを運営してきた湘南ステーションビル株式会社と株式会社横浜ステーシヨンビルの2社が合併し、新たに「株式会社JR横浜湘南シティクリエイト」が発足した。商業施設ブランドとして親しまれてきた「ラスカ」「シァル」を両軸としながら、神奈川エリアを中心に“沿線くらしづくり”を推進する新体制が本格的に動き出している。
その動きの一環として、今春から初夏にかけて、同社が運営するシァル各館では新規出店およびリニューアルが相次いでいる。シァル横浜では、タイ国商務省の「タイセレクト」にも認定された老舗タイ料理ブランド「チャオタイ」が、屋台弁当業態として6月下旬に新たにオープン予定だ。首都圏を中心に本格タイ料理を展開する同ブランドにとって、CIALブランド初の出店となる。
この「チャオタイ」出店の背景には、横浜駅という日本有数の乗降客数を誇るターミナル駅において、テイクアウト需要や国際的な食文化への関心が高まる中、都市型SCとしての食の多様性・専門性を強化する狙いがある。地下2階のフロア構成という立地特性も踏まえ、クイックでありながら本格志向のニーズを的確に捉えるテナント構成となっている。
一方、シァル鶴見では5月31日に人気焼き菓子「横濱ハーバー」や鎌倉発祥の洋菓子ブランド「レ・ザンジュ」を扱うスイーツ売場がリニューアルオープン。地域に根ざしたブランドを再集積することで、近隣住民を中心とした贈答・手土産需要の活性化を図る。
さらに、シァルプラット東神奈川では、米粉をブレンドしたパンやおにぎりの展開で注目を集める「アールベイカー」が初夏に新規出店を予定している。ベーカリーにおける差別化の難しい中、素材と製法にこだわった独自ブランドの導入は、日常利用型駅ビルとしての価値向上につながる。
こうした施設ごとのリーシング戦略の根底にあるのが、「CIAL=都市型」「LUSCA=郊外型」というブランディングの住み分けだ。ラスカは平塚・茅ヶ崎・小田原・熱海などJR東海道線沿線の主要駅を拠点に、地元住民の日常利用に寄り添う構成で成長してきた。一方、シァルは横浜・桜木町・鎌倉・鶴見など観光や都市生活に接続する駅立地を背景に、高感度なグルメや土産・カフェを展開してきた。今回の合併によってこの2つのブランド運営が一本化され、施設間の相互連携とナレッジの共有が可能になったことは、施設ポートフォリオ全体の戦略性を高める契機となる。
代表取締役社長・田村修氏は、新会社のビジョンとして「1+1が2ではなく、3にも4にもなるような相乗効果を生む会社」を掲げている。施設単体での収益向上にとどまらず、沿線全体での価値創造を目指す姿勢は、今後の駅ビル再開発・リニューアル計画にも大きな影響を与えるだろう。
シァルというブランドは、単なる駅ナカ施設ではなく、地域の文化や日常に溶け込む「都市型生活拠点」としての役割を深めつつある。各館における今春の出店・改装の動きは、その変化と可能性を象徴する事例といえる。以下、同社の新店・リニューアル店舗の概要と画像を引用。