JR九州「べっぷ駅市場」Ⅰ期エリア開業 地元文化と商店街の記憶を未来へつなぐ再生プロジェクト
別府駅高架下に半世紀以上続いた「べっぷ駅市場」が、JR九州ビルマネジメントによるリニューアルプロジェクトのもと、Ⅰ期エリアを開業した。かつて“市民の台所”として親しまれた市場は、老朽化や空き店舗の増加といった課題に直面しながらも、地元店舗が仮移転を経て営業を続け、地域と共に再生への歩みを進めてきた。今回の開業は、そうした歴史を受け継ぎながら、新しい姿で未来に繋げる第一歩となる。
Ⅰ期エリアでは、地元を拠点とする新規出店が注目される。焼き菓子やコーヒー豆の量り売りを行う「GRAM&GLAN」は、郊外カフェのオーナーが市街地に初出店し、会話を通じて商品を提案する。カフェと宿泊、アートを融合した「10 COFFEE BREWERS」は、別府をカルチャー発信地として位置づけ、観光客だけでなく地域住民が集える空間を志向する。さらに、別府のソウルフードとして親しまれてきた「ぶたまんの店幸崎」が6年ぶりに駅周辺へ復活し、事業承継を経て地元食文化を守る姿勢を示した。「湯煙食堂」は由布産しいたけを前面に打ち出し、大分の地酒とともに日常的に楽しめる立ち飲み業態を展開するなど、いずれも地域資源を軸に据えた店舗が揃った。
施設計画の大きな特徴は、誰でも挑戦できる場として新設されたシェアスペースにある。シェアキッチン、チャレンジスペース、キッチンカースペースを整備し、2026年1月から一般の公募を開始する予定だ。地元飲食店や小規模事業者が短期出店や新商品の試行を行える仕組みであり、創業支援と賑わい創出を両立する仕掛けとして注目される。開業当初は大分県内の人気店を中心に利用が予定されており、観光客の目に触れる場で地域発の新しい芽を育む機能が期待される。
空間デザインについても、従来の「本通り」を継承しつつ、新しい通路や広場を組み込み、駅とまちをつなぐ動線を拡張した。ロゴや看板デザインにも既存の市場の雰囲気を取り入れ、古くからの利用者が親しみを感じられるよう配慮されている。リニューアルは単なる刷新ではなく、商店街として培ってきた“地元密着”のDNAをいかに保ちながら新しい要素を加えるかという挑戦である。
別府市は観光都市として年間数百万人規模の来訪者を迎える一方、人口減少や商店街の空洞化といった課題も抱える。今回の「べっぷ駅市場」Ⅰ期開業は、観光需要を取り込みつつ地元の日常利用を支えるハイブリッドな空間を目指している。2026年夏にはⅡ期エリアの開業が予定されており、全面稼働を迎えることで、駅前エリアにおける地元商業の再生拠点としての役割が一層鮮明になるだろう。
JR九州はこれまでも大分駅や熊本駅で大規模な駅直結商業施設を展開してきたが、べっぷ駅市場は規模を追わず地域に根差した形で再構築を進める点で異なる。地域食文化の継承、創業支援の仕組み、観光と生活の接点という三つの柱を備えた今回の取り組みは、地元徹底型リノベーションの新しいモデルとして、今後の地方都市駅前開発においても注目される存在となりそうだ。以下、九州旅客鉄道株式会社のプレスリリースから画像を引用。