紳士服は「大型ロードサイド」から「駅前の小箱×在庫連携」へ──AOKI北千住の新フォーマット出店が示す次の標準
スーツを中心とする重衣料の小売は、この数年で「需要が戻るかどうか」よりも、「どういう店のサイズと仕組みで売るか」が競争軸になってきました。帝国データバンクの調査では、主要紳士服7社の店舗数は2024年度末時点で2300店前後と、コロナ禍前に最も多かった2017年度末(2997店)から約700店減り、郊外の従来型大規模店から展示数を絞った小規模な都市型出店へ切り替える動きもみられる、と整理されています。売上が横ばいでも、オーダーなど単価の高い領域が利益を押し上げる一方、既成スーツの構造的な需要縮小や人手・コストの制約に合わせて、店舗そのものを“軽く”していく流れが続いているということです。
この「小型化」は、単に面積を削る話ではありません。売場の役割を、在庫の山を見せる場から「選びやすさ」「提案」「短時間で決められる編集」へ寄せ、欠けるサイズや色はEC在庫や配送、店頭受け取りで補完する。青山商事が「SUIT SQUARE」を“ウィジェット型店舗”として、スーツからカジュアル、オーダーまでを束ねつつ「ネットのように注文したら自宅に届く」買い方まで含めて設計しているのは、象徴的な例です。
一方でAOKIは、これまで公式にも「郊外のロードサイドを主としたチェーンストア方式」で直営店を展開してきた企業です。ロードサイド型は、駐車場を抱え、一定の面積と在庫で“目的買い”を取り切る設計と相性が良い。だからこそ、AOKIが「駅前で成立する新フォーマット」を明確に掲げること自体が、同社にとっては出店先の追加ではなく、事業モデル転換の宣言に近い意味を持ちます。
今回のプレスリリースは、その転換を具体の店舗として提示しています。株式会社AOKIは2026年2月14日(土)、東京都足立区の北千住エリアで初出店となる「AOKI北千住駅西口店」をオープンします。店舗面積は63坪で、同社は本店を駅前型の「省スペース型ニューフォーマット店舗」と位置付け、銀座本店のリニューアルを皮切りに進める新たな店舗形態への転換の流れの中で、全国の主要拠点へ順次拡大していく方針を示しています。
売場の作り方も、駅前型を前提に再配分されています。従来通りスーツを揃えつつ、ビジネスカジュアルとレディースの売場面積を拡大し、快適かつスピーディーに買い物ができるゾーニング・動線を実現したとしています。面積が63坪でも「従来のAOKIと変わらない品揃え・サービス」を掲げられる根拠として、オンライン在庫で買って倉庫から自宅に届ける“ウェブオーダーサービス”と、注文品を店頭で受け取れる“店舗受け取りサービス”を挙げています。店の“物理在庫”ではなく、在庫連携と受け取り導線で品揃えを完成させる設計です。
この出店が示唆するのは、重衣料が駅前立地に戻ってくる、というよりも、駅前の反復動線に合わせて重衣料の「買い方」を組み替える動きが、ついにAOKIの本体ブランドでも前面化したという点です。駅前は、目的買いもある一方で「用事のついで」「短時間で決めたい」が強い。そこに対して、売場を広げるのではなく、迷いを減らす売場編集と、欠けはオンラインで補う仕組みで成立させる。ここがロードサイド型との決定的な違いで、同業の青山がウィジェット型を打ち出してきた流れとも同じ地平に立っています。
商業施設側・リーシング側の観点では、「紳士服は大箱が前提」という既成概念を揺らし得る点が重要です。小箱で成立するなら、駅前ビルや駅近商業の限られた区画でも“日常の仕事服”の受け皿を置ける可能性が出てきます。さらに、オンライン受け取りを含む運用が定着すれば、売場面積だけでなくバックヤードや搬入の設計、ピーク時の受け取り待ちの吸収など、施設運営の論点も変わります。店が「売る場」だけでなく「受け渡す場」にもなるため、混雑の出方と導線の作り方が、テナント単体の話を超えて館全体の体験に影響します。
同業他社を見ても、構造転換の圧力は共通です。コナカは2025年9月期の決算短信で、グループ全体として新規出店7店舗に対して退店44店舗となり、店舗数が減っていることを開示しています。業績面でも損失計上を含み、店舗の整理と事業の組み替えを進める局面が続いていることが読み取れます。はるやま側も、P.S.FA(Perfect Suit FActory)を首都圏や主要都市のショッピングセンターで展開する業態として説明しており、立地と業態の役割分担で都市部需要を取りにいく構図が見えます。こうした周辺状況の中で、AOKIが“駅前型の省スペース”を自社の新フォーマットとして明確化したことは、競争の主戦場が「どこで売るか」から「どの条件なら小さくても売れるか」に移っている現実を裏づけます。
今後の注目点は、売上目標のような外部から確かめにくい数値より、運用の成立条件に置くのが実務的です。第一に、ウェブオーダーと店頭受け取りがどの程度使われ、63坪という制約を“利便性”に転換できるか。第二に、受け取り・返品交換・裾上げ等がピーク時に詰まらず、駅前の短時間購買にふさわしいテンポを保てるか。第三に、ビジネスカジュアルとレディースを厚くした売場配分が、北千住の来街者のニーズと噛み合い、スーツの来店動機に依存しない集客を作れるか。ここがクリアできれば、AOKIの駅前型フォーマットは「縮小均衡」ではなく「再設計」として評価され、同様の駅前拠点への横展開に説得力が出てくるはずです。以下、株式会社AOKIのプレスリリースから画像と店舗概要を引用。
【店舗情報】店舗名 :AOKI北千住駅西口店
住所 :東京都足立区千住2-22
電話番号:03-6698-7958
店舗面積:63坪
営業時間:10:00~20:30




