杜の街グレースに尾道ラーメンが期間限定出店──30年で形づくられたローカルフードの現在地
岡山市中心部の杜の街グレースにおいて、2026年1月2日から3月31日までの期間限定で、「尾道らーめん 燈」がPOP UP出店する。冬期に合わせたラーメン業態の導入という点で、季節性と食の相性を踏まえたテナント施策であると同時に、ローカルフードを都市型商業施設に持ち込む試みとしても注目される。
今回出店する尾道らーめん 燈は、尾道ラーメンを軸に評価を重ねてきたブランドであり、岡山ラーメン博グランプリ2022での入賞実績を持つ。背脂を浮かべた醤油スープに、平打ち気味の細麺を合わせる構成は、現在「尾道ラーメン」として広く認識されているスタイルを踏襲するものだ。
ただし、この尾道ラーメンという食文化自体は、長い伝統を持つ郷土料理ではない。現在共有されているフォーマットが地域の共通認識として定着したのは、ここ30年から40年ほどの比較的最近のことである。戦後の尾道に点在していた食堂の中華そばを基層に、港湾や造船といった労働者の多い街の生活に合わせて調整されてきた味が、1990年代以降のご当地ラーメン再評価の流れの中で「尾道ラーメン」として言語化されていった。
この過程を下支えしてきたのが、地元製麺所の存在である。とりわけ井上製麺所に代表される製麺所は、特定の一店舗ではなく、複数のラーメン店に麺を供給することで、結果的に尾道ラーメンの食感や印象を共有化してきた。スープの方向性や背脂の使い方は店ごとに異なりながらも、麺の存在が「尾道らしさ」を静かに担保する役割を果たしてきたのである。
こうした背景を踏まえると、今回のPOP UP出店は、完成された名物を持ち込むというよりも、比較的新しいローカルフードを都市空間で再編集する試みと捉えることができる。岡山の食文化要素を取り入れた限定メニューの構成も、その柔軟性を前提とした展開と言える。
この出店を受け入れる両備ホールディングスにとっても、今回の取り組みは施設運営の一環として位置付けられる。恒常テナントではなく期間限定POP UPを活用することで、来街動機の更新や話題性の創出を図りつつ、地域性のあるブランドを都市生活者の日常に接続する。その選択肢として尾道ラーメンが選ばれている点は、施設の編集方針を象徴している。
尾道ラーメンは、守られるべき「古い名物」ではなく、比較的短期間で形づくられ、現在も更新が続くローカルフードである。杜の街グレースでの期間限定出店は、その柔軟な成り立ちを前提に、商業施設という文脈の中で新たな接点を模索する事例として位置付けられる。以下、両備ホールディングス株式会社のプレスリリースから画像と店舗概要を引用。
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■尾道らーめん 燈(あかり)店舗情報
店舗名:尾道らーめん 燈(あかり)
オープン日:2026年1月2日(金)~3月31日(火)
住所:岡山県岡山市北区下石井2丁目10番8号 杜の街プラザ1F
営業時間:11:00~22:00(L.O.21:00)
定休日:火曜日 ※年始の営業は、杜の街グレースに連動します
店舗URL:https://vesti-okayama.com/
運営者:株式会社VESTI






