JR東日本の車両整備車庫跡地を都市機能へ転換──大宮「リトルリトリートデポ」に見る休眠区画の価値再定義
JR東日本の都市開発において、駅や線路周辺の価値をいかに拡張していくかは、近年ますます重要なテーマとなっている。商業施設やオフィスの集積だけでは解決できない「滞在価値」や「回復」の要素を、都市機能としてどう組み込むか。その問いに対する一つの具体像として、大宮駅西口に誕生した都市型ウェルビーイング拠点「リトルリトリートデポ(通称:リトデポ)」が注目される。
リトデポの立地は、JR東日本の車両整備車庫跡地という、これまで一般利用を前提としていなかった鉄道インフラのバックヤードである。スキーマはこの場所を単なる商業床や暫定イベントスペースとして扱うのではなく、「都市型リトリート」という新たな都市機能として再定義した。遊休地や休眠区画を埋める発想ではなく、都市に必要な“回復と余白”を担う場へと価値転換した点が、本プロジェクトの本質である。
本件においてスキーマが担ったのは、空間設計やデザイン制作にとどまらない。事業の根幹となるコンセプト立案から、各領域のトップクリエイターを束ねるチームビルディング、さらに持続可能な収益と文化の循環を見据えたコミュニケーション設計まで、一気通貫での総合クリエイティブ・ディレクションを行った。鉄道敷地という制約条件の強い場所を前提に、どのような体験や価値を社会に実装するのかを設計した点が特徴である。
施設の中核となるのはサウナを起点としたウェルビーイング体験だが、それは単体の機能として存在しているわけではない。BBQやデイキャンプ、イベント、マルシェといった要素を連動させることで、来訪者が都市の中で非日常へとスイッチを切り替える体験設計がなされている。これにより、消費で完結する場所ではなく、文化として定着し、繰り返し訪れる理由を持つ場としての性格を備えつつある。
11月29日に行われたグランドオープンは、その方向性を象徴する機会となった。JR東日本の関係者とともに実施された「オープニングロウリュ」は、鉄道インフラとウェルビーイング文化が交差する瞬間を可視化する儀式として位置づけられた。また、トークイベントやサウナマルシェ、飲食コンテンツが重なり合うことで、都市と地域、来場者と作り手が交わる一日となり、リトデポが単なる施設ではなく「機能し始めた都市拠点」であることを示した。
制作体制においても、本プロジェクトは特徴的である。サイン設計、デジタル体験、映像制作、プロダクト開発、イベント運営など、多領域のプロフェッショナルが関与し、それらをスキーマが統合することで、一貫した世界観と体験価値が成立している。これは従来の商業施設開発に見られがちな分業構造とは異なり、体験全体を一つの価値として束ねるアプローチといえる。
リトデポは、休眠区画をどう埋めるかという議論から一歩進み、都市の余白をどのような機能に変換するのかという問いを投げかける事例である。鉄道インフラ跡地という条件の中で、ウェルビーイングと文化を軸に、持続的な都市循環モデルを構築しようとする試みは、今後の商業施設や再開発においても示唆に富むものとなりそうだ。以下、画像と施設概要を株式会社スキーマのプレスリリースから引用。
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■ 施設概要
リトルリトリートデポ
所在地:さいたま市中央区上落合9-7-3
アクセス:大宮駅西口徒歩7分
JR東日本プレスリリース:https://www.jreast.co.jp/press/2025/20251021_ho03.pdf【事業主体】東日本旅客鉄道株式会社
【運営】株式会社ジェイアール東日本都市開発
【クリエイティブ統括】株式会社スキーマ







