時代の変化に寄り添うブランド再構築──アイジーエーが描く「axes femme」からの次の一手
1941年、福井県越前市で創業した「五十嵐羅紗店」を起点とする株式会社アイジーエーは、地域の繊維卸として歩みを始めた。戦後の復興期を経て、1962年に法人化した同社は、長らく生地や服地を扱う地場産業の一翼を担ってきたが、1980年代後半、ショッピングセンター市場の拡大を見据え、自社ブランドによる小売業態へと舵を切った。この転換が、現在の同社を特徴づける「製造小売(SPA)」モデルの原点である。
1988年、郊外型商業施設内に初の直営店「AXES」をオープン。小売を通じた顧客との直接接点を確立し、以降、自社企画によるアパレル製造・販売へと展開を拡大した。2002年には社名を「株式会社アイジーエー」に改め、ブランド「axes femme(アクシーズファム)」を立ち上げ、三重県桑名市の桑名ビブレに1号店を出店。クラシカルでロマンティックなデザインを特徴とするこのブランドは、地方都市の商業施設を中心に全国へと広がり、2009年には店舗数100店を突破。北陸発ブランドとしての存在感を確立した。
一方で、同社の強みは単なる店舗拡張ではなく、時代や地域の変化を見据えた「再構築力」にある。2020年代に入って以降は、長年愛されてきたaxes femmeを軸にしながらも、ブランドの再編集を加速。和モードユニセックスブランド「REZEN」、雑貨ブランド「ROSE ROUGE」、サブカル系の「NIBBLE POISON」など、感性や趣味嗜好の多様化に応える新ラインを次々と立ち上げている。2025年には京都・河原町オーパにフェミニン系新ブランド「Chalmiere」を出店予定であり、ブランドポートフォリオの広がりは明確だ。
これらの新展開は、既存顧客の再来店を促すと同時に、新たな層への接点を生み出している。たとえば9月にリニューアルしたイオンモール岡山店では、新ブランド導入による感度の高い売場づくりが奏功し、「入ってみよう」と思わせる新鮮さを演出。イオンモール神戸北店では、来店客の声をもとにキッズアイテムを再展開し、ファミリー層の回遊性を高めた。神戸三宮センター街では路面店として再出店し、かつてのファン層との再接点を実現。こうした地域特性に合わせたMD刷新と空間設計は、同社が掲げる「One to Oneの店舗づくり」を体現している。
また、近年は地方創生やサステナビリティにも力を入れる。創業の地・越前市では、昭和初期の古民家をリノベーションした「五十嵐羅紗店プロジェクト」を始動し、地元産業の記憶を現代のブランド体験へと昇華。生産・物流拠点も地域密着で運営し、廃棄ゼロやリサイクルを重視するサステナブル経営を推進している。
さらに、海外展開も視野に入れる。上海ではすでにイベントを開催しており、年内には台湾での出店も予定。北陸発ブランドからアジアへ――その動きは、国内のファッションカルチャーを世界に発信する挑戦として位置づけられる。
このように、アイジーエーの成長軌跡は、「地域の商人」から「文化を創る企業」への変遷そのものだ。福井に根ざしながら、全国の商業施設で多様な顧客と出会い、時代ごとの感性を掬い上げてきた。同社の掲げる「“こんな店あったな”を“入ってみよう”に変える」という言葉は、単なる販促の合言葉ではない。長年築いてきた信頼とブランド文化を時代に合わせて再構築する姿勢の表れである。
商業施設の現場から見れば、アイジーエーの戦略は“地域密着×ブランド再生”という両立の好例である。成熟市場においても成長を続ける背景には、過去に依存せず、地域とともに進化を選んだ柔軟な経営姿勢がある。axes femmeを生み出した北陸の地から、ファッションの新しい波がまた一つ広がろうとしている。以下、同社のプレスリリースから画像を引用。