水甚、下請け型からの転換を象徴──「FIRST DOWN USA」ららぽーと福岡店で見るブランド戦略の深化
1980年代のニューヨークで誕生したストリート&アウトドアブランド「FIRST DOWN USA」が、10月17日にららぽーと福岡へ出店する。国内では2024年末の吉祥寺店に続く2店舗目であり、運営する株式会社水甚(岐阜市)が進めてきたブランド戦略の新たな節目となる。
水甚は1964年創業のアパレルメーカーで、もともとは紳士服のスラックスを中心とする縫製工場に端を発する。長らく量販店やGMS向けのOEM・ODMを中心に事業を展開してきたが、発注元依存の構造を脱し、自社ブランドを育成する方向へと転換を図ってきた。中村好成社長は、製造力に加えてブランドを自らマネジメントする体制を整えることが、企業の持続的成長につながると語る。
その転換の象徴が、米国ブランド「FIRST DOWN」と「Eddie Bauer(エディー・バウアー)」の日本展開である。いずれも水甚が正規ライセンスを取得し、企画から販売までを一貫して手掛ける。今回のららぽーと福岡店も、Eddie Bauer店舗との併設という形を取り、アウトドアとストリートという異なる文脈をひとつの空間で融合させている。これにより、従来の卸売やOEMの枠を超え、消費者と直接つながるリテール戦略を強化する狙いが見て取れる。
FIRST DOWN USAは、グラフィティ文化が息づいた1980年代のニューヨークをルーツとし、象徴的な「バブルダウンジャケット」で知られる。90年代には日本でもブームを経験し、近年はZ世代を中心に再び注目を集めている。水甚はこうしたカルチャー的背景を現代的に再構築し、機能性とデザインを両立したコレクションとして再展開。自社が持つ縫製技術と世界的ブランドのイメージを融合させることで、下請けに依存しない付加価値型の製品開発へとシフトしている。
近年の同社は、ECと実店舗を統合したオムニチャネル戦略を推進。複数ブランドを束ねた自社EC「MIZUJIN WEBSHOP」を開設し、ブランド横断での顧客データ統合やポイントプログラムの導入を進めている。これにより、製造から販売、そして顧客との関係構築までを一貫して自社で担う体制が整いつつある。
ららぽーと福岡は、ファミリー層から若年層まで幅広い来訪者を抱える九州エリアの旗艦商業施設であり、アウトドア・カジュアルブランドの集積が進む拠点でもある。FIRST DOWN USAの出店は、ストリートとアウトドアの融合を掲げる同ブランドのポジショニングを示すとともに、水甚が目指す「ブランドオーナー型メーカー」への変革を具体化する一歩といえる。
吉祥寺、福岡と続く展開は、同社がOEM中心の構造から脱し、ブランドマネジメントを核とする企業へと進化している証左である。縫製工場として培った技術力と、時代を読み解くマーケティング感度の双方を活かしながら、水甚は“下請けからブランドへ”という構造転換の道を着実に歩んでいる。以下、株式会社水甚のプレスリリースから画像と店舗概要を引用。
オープン日時: 2025年10月17日(金) 10:00~
店舗名 : FIRST DOWN USAららぽーと福岡店
住所 :〒812-0893 福岡市博多区那珂6丁目23-1 ららぽーと福岡 2F
電話番号 : ※オープンより対応 ※担当直通:090-1764-9836