おにぎりの世界基準化に挑む──Rice Platformer「ONI&Co. Tokyo Lab.」開業と海外市場の行方
日本のソウルフードである「おにぎり」が、いま新たなステージへ向かおうとしている。2025年9月、Rice Platformer株式会社が東京・初台に開業した「ONI&Co. Tokyo Lab.」は、その象徴的な動きである。代表を務める川原田美雪氏は、これまでRICE REPUBLIC社長として「TARO TOKYO ONIGIRI」を率いてきた人物であり、今回新会社を設立し独立した。大手米穀流通グループの傘下で培った経験を踏まえ、独自のスタートアップとして「おにぎりを世界基準のファストカジュアルへ」と掲げた点に特徴がある。
初台の店舗はセントラルキッチン機能を備え、店頭販売だけでなくケータリングやポップアップ展開の拠点としても機能する。提供される商品は、アラスカ産紅鮭や紀州南高梅といった伝統的な具材に加え、炙りたらこバターや静岡県産うなぎおこわなどの創作的な組み合わせが並ぶ。使用米は青森県産の特別栽培米「梵珠米」。減農薬・減化学肥料で栽培される数量限定のブランド米で、香りと甘み、粘りのバランスが握りたてに適しているとされる。素材のストーリーを前面に打ち出す姿勢は、施設への誘致を検討する際にも差別化要素となる。
国内では老舗「おにぎり浅草宿六」や大塚の行列店「ぼんご」が存在感を放つ。前者はミシュラン・ビブグルマンに選出され、寿司屋さながらのカウンターで具材を選ぶ体験を重視。後者は50種類を超える多彩な具材とトッピング自由度でファンを集め、コンビニコラボや通販展開も行っている。一方で、セントラルキッチン方式を導入し多店舗展開を進める「こんが」など、効率性と拡張性を両立する新勢力も台頭している。こうした状況に比べると、ONI&Co.は素材産地の物語性とファストカジュアル志向を融合させ、ブランド体験を海外市場に直結させる方向性が際立つ。
実際、海外市場に目を向けると、おにぎりの浸透は着実に進んでいる。ニューヨークでは「Omusubi Gonbei」が日本食材店内に常設され、ロサンゼルスでは「Sunny Blue」が“米国初のメイド・トゥ・オーダーおむすび”を掲げて定着。ロンドンでは「Wasabi Sushi & Bento」が弁当と並んでおにぎりを展開し、チェーン展開の中で日常食化を進めている。パリでは専門店が50店舗以上存在し、スーパーで約3.4ドル相当の商品が販売されるなど、寿司やラーメンと並ぶ「和食定番カテゴリー」として位置づけられつつある。さらにアジア圏では、台湾のコンビニ市場やDON DON DONKIの即食棚で常備化が進み、日常の食卓に溶け込む段階に入っている。
こうした動向から見えてくるのは、専門店型の“体験”と量販チャネルの“日常性”が並走しているという構図である。商業施設におけるテナント戦略としては、駅ナカや空港、フードホールなど回転率の高い立地での展開が相性がよく、同時に観光導線でのインバウンド対応にも資する。ONI&Co.の初台拠点はあくまで実験店舗だが、セントラルキッチン機能を備えた設計は多店舗化を前提にした布石と読み取れる。
おにぎり市場の国際化は、素材訴求・効率運営・価格帯調整といった複数の課題を伴う。しかし、日本の米文化を武器に世界基準のファストカジュアルとして展開できるかどうかは、今後の商業施設におけるフードカテゴリー再編に大きな影響を及ぼす可能性がある。ONI&Co.の挑戦は、単なる新店開業にとどまらず、日本発フードブランドが海外市場でどのように根付いていくかを示す試金石となろう。以下、プレスリリースから画像と店舗概要を引用。
店舗概要
・店舗名:ONI&Co. Tokyo Lab.
・所在地:東京都渋谷区本町1-7-1 森川ビル1階
・オープン日:2025年9月25日
・Instagram:@onico_jp