“農の出口戦略”を体現する拠点が滋賀・坂本に誕生──お米由来のカフェ「穴太商店 本店」がオープン
農業を起点とした多角的な事業展開を推進する株式会社穴太ホールディングスが、滋賀県大津市坂本に直営店舗「穴太商店 本店」を開業する。同社にとって関西初のリアル店舗となるこの出店は、単なる販売拠点ではなく、農の出口戦略としての最前線の拠点となる可能性を秘めている。
運営母体の穴太ホールディングスは、千葉県君津市および北海道栗山町における水稲の自社栽培からスタートし、米粉・甘酒・卵・米ぬか化粧品など、米を起点に派生する多様な商品群を加工・開発してきた。これらはすでにECや期間限定店舗を通じて展開されてきたが、今回の本店オープンは、B2Cにおけるリアル空間での本格的なブランド表現の第一歩といえる。
注目すべきは、出店地である滋賀県坂本が、石垣積み技術「穴太積み」を生んだ穴太衆の本貫地である点だ。石垣技術を活かし、日本の名城を支えた職人集団の地に、自らを「穴太」と冠した企業が店を構えるという文脈には、強いストーリー性が宿る。店内ではその文化背景に連なる展示や商品も扱い、観光や地域文化との接点も形成されている。
取り扱う商品は、「自家製米麹甘酒」をベースにしたソフトクリームやドリンク、飼料米で育てた鶏の卵を使ったスイーツなど。飲食スペースも併設され、手づくり米粉パンをはじめとするスイーツとオーガニックコーヒーを楽しめるカフェ機能を備える。とくに「琵琶湖ブルーラテ」や「石積みソフト」といった商品には、素材だけでなく土地の物語が織り込まれており、観光客の関心を引く要素が散りばめられている。
農業と観光、文化の融合という視点から見れば、この業態は単なる農産加工物の直売ではなく、ストーリー性をもった地域発のブランド体験の提供ともいえる。農家が一次産業の枠を越え、自らブランドを立ち上げ、空間体験まで含めた小売の構築を行うという点では、従来の6次産業化の枠を超えた挑戦と捉えるべきだろう。
商業施設の開発や運営においても、こうした“生産者が起点となるブランド体験”を取り込むモデルは、今後のローカル・エリアマネジメントの文脈でも応用が可能だ。特に、観光・文化資源を持つ中規模都市や歴史都市においては、テナントミックスの中にこうした価値共創型業態を組み込む意義は大きい。
穴太商店本店の開業は、単なる米スイーツショップの出店ではない。農業の新しい出口が「物販」から「体験」へとシフトする中で、どのように空間設計し、文脈を活用し、ブランド価値を伝えていくか──その問いに対する一つのリアルな実践例となるだろう。以下、株式会社穴太ホールディングスのプレスリリースから画像と店舗概要を引用。
店舗概要
■店舗名:穴太商店 本店(あのうしょうてん ほんてん)
■営業時間:10:00~17:00
■定休日:火曜日
■住所:〒520-0113 滋賀県大津市坂本4丁目11-43
■電話番号:077-536-6930
■駐車場:なし(近隣駐車場をご利用ください)