Y. & SONS 表参道、きものテーラーの新拠点として始動──都市と伝統を結ぶ10年目の節目
株式会社やまとが展開するメンズきものブランド「Y. & SONS」が、表参道に国内3店舗目を開いた。ブランド創立から10年、神田、新風館、そしてパリへと展開を広げてきた同ブランドにとって、表参道は次の段階を象徴する舞台である。きものを日常のファッションとして再編集してきた同社の歩みを踏まえると、本出店は単なる店舗拡大ではなく、長期戦略の延伸として位置づけられる。
やまとは2000年代以降、きものを「式典の服」から「日常のファッション」へと転換する方針を明確化し、産地との協業や新業態開発を重ねてきた。その流れの中で2015年に誕生したのがY. & SONSであり、メンズ市場におけるきものの再定義を担う存在として設計された。現社長が新業態を指揮した背景には、前会長時代に整備された“カジュアル化・アパレル化”の企業戦略がある。ブランドはその思想を最も研ぎ澄ました形で体現しており、きものテーラーというフォーマットは、仕立てのプロセスそのものを体験価値として扱う点に特徴がある。
今回の表参道店は、ブランドが掲げる「伝統と都市文化の融合」という姿勢を、空間として改めて提示する場所である。神宮前エリアは、表通りの喧騒からわずかに離れた地点に高感度のショップやギャラリーが点在し、街の落ち着きと洗練が同居する。こうした環境は、きものを固定的な文化として扱わず、街の景色に溶け込む「現代の装い」として提案していくY. & SONSの方向性と相性が高い。実際、店内には全国の産地で仕立てられた反物が並び、コラボレーションアイテムも交えて構成されている。客はテーラーリングのプロセスを通じて、きものが「選び、仕立て、育てる服」であることを自然と理解できる。
さらに、店奥に設けられた二本の赤松が象徴的である。自然光の差し込む中庭に立つその姿は、ブランドがこれから描こうとする未来の方向性を象徴する設えであり、店舗全体の世界観を深める役割を担う。空間を体験価値の一部として捉える姿勢は、近年のラグジュアリーリテールや工芸領域に共通する潮流とも重なる。
表参道店では、天然染料による扇子や団扇といった限定アイテムも展開されている。産地の技術や素材に光を当てる姿勢は、同ブランドが長年続けてきた「さんちとの協業」という企業文化の延長である。きものの本質を大切にしつつ、現代の消費者が共感しやすい“ものづくりの背景”を可視化する手法は、工芸系ブランドの出店が続く表参道の文脈においても存在感を持つ。
Y. & SONSの出店には、メンズきもの市場そのものを広げていく役割がある。既存のきもの顧客ではなく、洋服を中心とした都市生活者に選ばれることを前提に設計されたブランドは、和装の領域を越え、ファッションの文脈で語られる稀有な存在となっている。パリへの進出を経て、表参道での新拠点開設は、国内外へ向けた発信力をさらに強化する局面といえる。
10年の歩みの中で、Y. & SONSはきものテーラーとしての礎を築いた。今回の表参道店は、きものを現代に再接続するブランドの思想を視覚化する場であり、商業地として成熟する表参道に新たな文化的要素を加える存在となるだろう。以下、同社のプレスリリースから画像と店舗概要を引用。
【店舗概要】
店舗名 :Y. & SONS 表参道
所在地 :〒150-0001 東京都渋谷区神宮前4-13-4
営業時間:11:00〜20:00
取扱商品:きもの、羽織、帯、和装小物、表参道限定アイテム ほか
Instagram:@yandsons_omotesando
Brand Site:https://www.yandsons.com/





