都市と商業 vol.2|前橋市 百貨店が去った街で、商業は再び生まれるか──再生の胎動を追う
かつて群馬県の県都・前橋市には、多くの人が集まり、歩道橋を埋め尽くす人波と共に百貨店が林立していた。だがその賑わいは過去の記憶となり、今や市の中心部には大型商業施設の姿はない。だが「ない」からこそ、新たな胎動が始まっている。百貨店が去った地方都市は、どうやって再び商業を立ち上げるのか。都市再生の実験地・前橋の今を追う。
消えた中心街と、残された都市機能
前橋市の中心市街地は、JR前橋駅と国道17号に挟まれた一帯に広がっている。かつてこのエリアには、前橋西武、前橋スズラン、前橋丸井といった百貨店が並び、「北関東の銀座」とも称された。とりわけ1990年代までは、前橋駅から徒歩15分の中心市街地が、まさに人の波で満ちていた。
だが、モータリゼーションと郊外大型店の進出により、2000年代に入ると中心街の空洞化が進む。2009年に西武百貨店が閉店、2019年にはスズランが中心街から撤退。今では商業核は郊外に移り、前橋駅周辺も「都市の顔」としての機能を失いつつある。
とはいえ、行政機能、文化施設、教育機関は今なお中心市街地に集積している。人の流れをつなぐ仕組みと空間が欠落しているだけで、都市構造そのものが失われたわけではない。
リノベーションから始まる再生の動き
前橋の再生は、2010年代後半から民間主導で動き出した。象徴的なのが、前橋市千代田町に生まれた「前橋まちなか音楽館」や「comm(コム)」といった複合拠点。空きビルをリノベーションし、飲食、コワーキング、イベントスペースなどが一体化されたこれらの施設は、単なる再利用ではなく「都市をもう一度歩かせる」ための装置として機能している。
また、アートと商業を組み合わせた「めぶく。」プロジェクトや、中央通りアーケードの活用も進んでいる。前橋文学館、群馬県立図書館、アーツ前橋などの文化拠点と連携し、生活者の日常と結びついた新たな商業の芽が育ち始めている。
駅と郊外、二層で支える前橋の商業構造
前橋市の商業は「衰退」だけでは語れない。都市構造の再編とともに、駅前と郊外の両面から新たな商業機能が再構築されつつある。
JR前橋駅北口直結のアクエル前橋は、TSUTAYA BOOKSTOREやカフェ、飲食店などが集まる複合商業施設で、鉄道利用者や周辺の学生・ビジネスパーソンをターゲットにしている。公共施設と民間施設が共存するこの施設は、駅前商業の新しいかたちを模索している。図書空間、飲食、地域サービスが共存し、都市生活のリズムを回復させる拠点として機能している。
一方、駅前からやや距離を置いた郊外には、規模と集客力を備えた施設が点在する。「けやきウォーク前橋」は、アピタを核とし150以上の専門店が並ぶ大型ショッピングセンターで、映画館や書店も併設されている。郊外型でありながら“街の生活拠点”として定着し、週末には周辺市町からの来訪も多い。
また、リニューアルを重ねてきた「前橋リリカ」や、ドン・キホーテなどを擁する「ガーデン前橋」も、郊外居住者の“日常消費”を支える拠点であり、効率志向の消費行動と親和性が高い。
これらの施設群は、都市の回遊性とは別軸で「生活に根ざした商業機能」を担いながら、中心市街地再生と並行するかたちで前橋の都市商業を支えている。
商業というより、都市をつくりなおす試み
前橋でいま起きているのは、単なる“商業の復興”ではない。むしろ「都市をもう一度編み直す」ような取り組みであり、施設単体で勝負する従来型の商業施設戦略とは一線を画す。
地元企業や市民団体、学生などが都市の空間を自らの手で変えていく動きは、まさに生活者による都市再生である。そして、そこに必要とされる店舗とは、“儲かる店”ではなく“あるべき店”、あるいは“その場に必要とされる場”である。これは商業施設の定義そのものを問い直す現場でもある。
前橋という地方都市の再生は、東京圏の延長では捉えきれない、地域主導・生活者起点の都市商業の可能性を映し出す。百貨店が去ったその先で、かつてにないかたちの「まちの経済」が立ち上がろうとしている。