“過ごせる書店”が中心市街地の複合拠点に進化 今井書店松江本店がリニューアルオープン
島根県松江市に拠点を構える株式会社今井書店は、グループセンター店として親しまれてきた松江の旗艦店を大規模にリニューアルし、2025年4月24日、「今井書店 松江本店」として新たにオープンする。書店機能を核としながらも、飲食、ワークスペース、キッズエリアなどを融合した空間構成は、単なる書店の改装ではなく、地方都市における**“滞在型複合商業施設”への進化**を意味している。
地域密着型の商業施設が全国的に再定義される中で、今回のリニューアルは、書籍の販売を超えた生活提案型施設としての再構築と位置づけられる。5月20日には、本格的なナポリ風ピッツァを提供する「IAMCoffee Pizzeria&Cafe」も施設内に開業予定で、食と文化が交差する拠点として、幅広い来訪動機の獲得を図る。
今井書店の戦略は、ネット通販や大手チェーンによる寡占化が進む中、地方におけるリアル商業施設の再活性化モデルと見なすことができる。リアル店舗の価値が問われるいま、同店は“モノを買う場”から“時間を過ごす場”への転換を明確に志向している。カフェスペースにはWi-Fi・電源を完備したワークエリア、オープンテラス、ペット同伴可能エリア、さらにはキッズスペースも用意され、多世代が滞在可能な空間構成を実現。地域における“生活の交差点”を創出している。
また、約22万冊に拡充された書籍の在庫は、Amazonをはじめとするオンライン書店では得られない“棚からの偶然の出会い”を提供する。来店客は目的の有無にかかわらず、長時間滞在しながら書籍や雑貨を手に取り、飲食や休憩を楽しむという流れが想定される。これは“買い物=短時間滞在”という従来の商業施設構造とは異なる、新しい滞在型の商業モデルに他ならない。
施設設計にも地域性が色濃く反映されている。内装には鳥取県智頭町のブランド杉「智頭杉」を使用し、木のぬくもりを感じさせる落ち着いた空間を演出。地元産材を活用することにより、施設そのものが地域経済との接点となり、商業施設の社会的価値を高めている。
地方都市においては、百貨店の閉店や中心市街地の空洞化が進む中で、日常と文化を担う**“小規模だが高密度な複合施設”**の存在が注目されている。今井書店 松江本店のリニューアルは、まさにその実践例であり、商業施設のあり方そのものを問い直す取り組みといえる。
地元クリエイターとの連携イベントやマルシェの開催も予定されており、地域との結びつきは今後さらに強化されていく見込みだ。書店を起点に、食、仕事、育児、交流がシームレスにつながる空間設計は、地方都市における“生活接点型商業施設”の新しいかたちとして、今後のモデルケースとなる可能性を秘めている。以下、同社のプレスリリースから画像を引用。