札幌PARCO、五十嵐威暢展を起点に示す「現代のメセナ」──商業と文化の新たな関係性
札幌PARCOが10月から11月にかけて開催する「A–Z Homage to Takenobu Igarashi」は、商業施設の空間を丸ごと使った大規模な企画展である。館内の階段「STEPS207」やショーウィンドウを展示空間として開放し、さらに週替わりでZINEやリソグラフ、古書や音楽グッズを扱うポップアップを展開する。百貨店の大丸札幌店とも連動し、街区全体で文化発信を行う構成は、単なる集客施策を超えた意味を帯びている。
思い起こせば1970年代から80年代にかけて、セゾングループは企業メセナの象徴的存在だった。西武百貨店の広告コピー「おいしい生活。」は今も語り継がれ、PARCOは自ら劇場を持ち、広告やポスターを芸術表現の領域にまで高めた。堤清二の下で育まれた「文化なくして企業なし」という理念は、商業と芸術を一体化させ、企業が文化を支える先駆的な姿勢を示した。
当時のメセナは、高度成長期の経済的余力を背景に成立した側面が大きい。しかし今日、経済環境や社会背景は大きく異なる。誰もがSNSやデジタルを通じて文化発信できる時代に、企業が文化を支援する意味は「資本の力」ではなく「編集力」「場の創出」へと重心が移っている。商業施設が文化を媒介し、人と街をつなぐ空間として機能することが、新しい価値を生む条件になっている。
札幌PARCOが今回打ち出す展覧会は、まさにその挑戦の表れである。五十嵐威暢というデザイン史に刻まれた人物を軸に、施設のインフラを展示化し、地域の書店やクリエイターを巻き込み、グループ内の百貨店とも連携する。商業施設を単なる消費の場から、文化体験の拠点へと位置づけ直す取り組みは、セゾン時代のDNAを現代的に再構成した“新しいメセナ”といえるだろう。
商業と文化の境界が問い直される中で、札幌PARCOの試みは、企業がどのように社会と文化に貢献できるのかを示すひとつの事例である。施設自体がメディアとなり、街の文化資産として機能する。その姿は、かつての企業メセナの理念を受け継ぎながらも、現代の時代精神に即した新しい解答を提示している。以下、株式会社パルコのプレスリリースから画像を引用。