世界遺産・仁和寺境内にストーンマーケット出店 門前町的発想を現代に引き寄せた稀有な事例
世界遺産「古都京都の文化財」の構成資産である総本山 仁和寺の境内に、天然石アクセサリーを展開するストーンマーケットが常設店舗を出店した。2025年11月21日にオープンした同店は、文化財保護の観点から出店条件が極めて厳しいとされる寺院境内において、全国規模で展開するチェーン企業が恒常的に物販を行うという点で、きわめて例の少ない取り組みである。
寺院の境内は、宗教性や歴史的価値を守るため、商業活動との距離が慎重に保たれてきた領域である。特に世界遺産に登録されている寺院では、景観、導線、扱う商材の性質に至るまで、事業者側に高い配慮が求められる。そのため、一般的な商業施設と同様の発想での出店は成立しにくく、全国チェーンが常設店舗として入る事例はごくわずかに限られてきた。
一方で、日本の商業史を振り返ると、寺社と商業は本来、切り離された存在ではない。人々の信仰や参詣によって自然発生的に人流が生まれ、その周縁に商いが集積することで門前町が形成されてきた。人が集まる必然性を持つ場所がマーケットとなるという構造は、古来より日本各地で繰り返されてきたものである。
今回の仁和寺境内への出店は、そうした門前町的発想を現代的に再解釈した動きと捉えることができる。従来、商業は境内の外側に位置づけられることが一般的であったが、本件では境内という精神性と歴史性を帯びた空間の内部において、商いが成立している点が特徴的である。
ストーンマーケットが扱う天然石は、日常消費を前提とした商品ではなく、祈りや願い、記念性といった意味づけと結びつきやすい商材である。参拝や観光という行為と親和性が高く、購入そのものが体験の一部として機能しやすい。仁和寺という特別な場所性の中で、文化的体験の延長線上に位置づけられることで、単なる物販を超えた消費行動が生まれる余地がある。
この出店は、新たな業態開発というよりも、商業の原点に立ち返る動きとも言える。商業施設が集客装置となって人を呼び込むのではなく、すでに人が集まる強い理由を持つ場所に、商いが寄り添うという構造である。ストーンマーケットがこれまで、観光地や人流の明確な立地を重視してきた出店姿勢の延長線上に、今回の仁和寺店は位置づけられる。
商業施設やデベロッパーの視点で見れば、本件は文化資源をいかにマーケットとして捉え直すかという問いを投げかける事例でもある。文化財や歴史資源を単なる集客装置として消費するのではなく、その文脈を尊重しながら、体験価値と結びつけた商業の可能性を探る。その試みの一つとして、仁和寺境内への出店は今後の議論を喚起する存在となりそうだ。以下、同社のプレスリリースから画像と店舗概要を引用。
■店舗概要
店舗名:STONE MARKET 仁和寺店
所在地:京都府京都市右京区御室大内33
オープン日:2025年11月21日
営業時間:10:00〜16:00(季節により変動)




