三極に揺れる都市──広島市の商業が問う「100万都市」の均衡
都市と商業 vol.6|広島市
100万人都市のゆらぎ──分散する拠点、偏在する人口、揺れる商業構造
広島市は人口119万人を抱える中四国最大の都市である。だがその商業構造は単純な大都市のスケールでは語れない。中心部の紙屋町・八丁堀、再整備が進む広島駅周辺、そして郊外の西部地区──。都市内に明確な「三極構造」が存在し、それぞれが異なる消費動線と都市的役割を担っている。
この三極構造の背景には、広島市に特有の“人口の偏在”がある。人口100万人規模でありながら、実際には都市居住の大部分が南西部・南部に集中しており、都市空間の広がりに対して均等な定住は存在しない。結果として、商業施設の立地や規模が実需と乖離しやすく、「オーバーストア」と指摘される現象が生じやすい構造となっている。
紙屋町・八丁堀──記憶と生活が交差する都市の顔
戦後復興の象徴でもあった紙屋町・八丁堀エリアは、長らく広島市の商業の中心として栄えてきた。そごう広島店、福屋、パルコ、シャレオ(地下街)などが集積し、市電とバスの交差点として地元客と観光客の双方を吸引してきた。
しかし近年は、施設の老朽化、店舗の入れ替わり、地元系テナントの撤退などが相次ぎ、再構築が求められている。観光と地元消費の二重構造を活かしながらも、都市としての“次の物語”がまだ描き切れていない印象が強い。
広島駅周辺──鉄道と再開発が導く第二の重心
広島駅周辺、通称“エキキタ”では、近年再開発が急ピッチで進行している。JR西日本による駅ビル「ekie」整備、新駅ビル計画、シェラトンホテルやMICE施設の整備により、都市の第二重心としての存在感を急速に高めている。
紙屋町・八丁堀との距離感と連携の再構築が課題である一方、交通アクセスに恵まれたこの地区は、商業地としての更新余地も大きい。現在の開発が“点”で終わるのか、それとも都市全体を動かす“軸”になり得るかが問われている。
西部郊外──商業集積が都市の構造を揺さぶる
広島の第三の商業極は、西部郊外に形成された巨大商業ゾーンである。LECT(2017年開業)、THE OUTLETS HIROSHIMA(イオンモール系)、ゆめタウン廿日市、旧アルパークの再生──これらはいずれも都市中心から離れ、車利用を前提とした広域集客型の施設群だ。
これら郊外モールは、地元住民の生活動線の一部となる一方で、都心部の商業圏と競合し、消費の分散を加速させている。特に人口が集中する南西部からのアクセスの良さが、紙屋町・八丁堀の求心力を相対的に下げている現実もある。
アストラムラインと都市構造の接続不全
広島市独自の新交通システム「アストラムライン」は、北部山間部と都心をつなぐ都市軸として計画された。だが、その終着駅である「広域公園前」では、地下に設けられた商業施設が十分に機能せず、空洞化した都市空間の一例とされている。
この失敗は、人口密度と動線、そして施設規模の関係を見誤った結果でもある。都市の広がりに応じて商業が配置されていないという問題は、アストラムライン沿線全体に共通する構造課題だ。
人口100万人都市にとっての問い──均衡か分散か
広島は政令指定都市の中でも、都市面積が広く、拠点が分散しやすい構造を持つ。その結果として、100万人の人口を抱えながら、各エリアでの消費規模が“100万都市”のスケールに達していないというジレンマを抱えている。
今後、中心街・駅前・郊外をどのように再接続し、都市全体としての一体感を保ちつつ、それぞれの拠点が生き残る構造を築けるか。広島の商業は今まさに、その問いに向き合っている。