インバウンド一極化が進む京都中心部で、公園を舞台にした「日常回復型カフェ」が誕生──南岩本公園に「The Paddock Cafe」
京都市内では近年、空前のインバウンド需要が続いている。一方で、観光需要の拡大とは裏腹に、京都市民が日常的に利用してきた飲食店や生活密着型の店舗は減少傾向にあり、特に中心部では「市民が憩える場所」の喪失が課題として浮かび上がっている。観光特化型の業態転換や賃料上昇により、地元需要を支えてきた店舗が姿を消し、地域経済が必ずしも潤っていない現実も指摘されている。
こうした状況のなか、京都市南区・南岩本公園内に新たに誕生する「The Paddock Cafe」は、インバウンド偏重とは異なるアプローチを示す事例として注目される。京都駅徒歩圏という立地にありながら、商業ビルや観光動線上ではなく、公園という公共空間を舞台に据えた点が特徴である。
南岩本公園が位置する東九条エリアは、京都市が推進する「若者・アートモデル地区構想」により再開発が進み、文化・芸術拠点としての色合いを強めている地域である。一方で、居住人口も抱えるエリアであり、観光と生活のバランスが問われてきた場所でもある。その中心となる公園内に、地域利用を前提とした飲食・滞在機能を組み込むことは、エリアの役割を再定義する試みともいえる。
同店は、朝から終日利用できるアフタヌーンティーをはじめ、地元食材を活かしたメニューやヴィーガン対応の選択肢を用意し、観光消費に限定しない日常利用を想定している。また、キッズスペースやバリアフリー設計、ベビーカー対応など、ファミリー層を受け止める設備計画も特徴の一つである。ペット同伴可能なテラス席の導入も、公園利用者の日常的な滞在を意識した設計といえる。
グランドオープン当日には、ポニーによる乗馬体験が実施される予定だが、これは観光向けアトラクションというよりも、公園空間に体験価値を付加する取り組みとして位置づけられている。今後は引退競走馬とのふれあいも構想されており、単発的な話題づくりではなく、継続的な地域との関係構築を志向している点が読み取れる。
公園清掃などの地域活動への参加も掲げられており、同店は飲食提供にとどまらず、公共空間と地域コミュニティをつなぐ役割を担う存在として構想されている。観光需要の吸収ではなく、生活圏に根ざした滞在拠点をいかに維持・育成していくかという課題に対し、一つの回答を示す出店といえる。
インバウンド一極化が進む京都中心部において、生活と観光の間に生じた歪みを、公園という公共空間から補正しようとする試み。その象徴的な事例として、「The Paddock Cafe」の動向は今後も注視されそうである。以下、同カフェのプレスリリースから画像と店舗概要を引用。
店名 The Paddock Cafe(パドックカフェ) 所在地 京都府京都市南区東九条南岩本町21(南岩本公園内) アクセス JR京都駅 徒歩10分/地下鉄九条駅 徒歩6分/京阪東福寺駅 徒歩7分 営業時間 8:30〜17:00(料理L.O.16:00/16:00以降はテイクアウトのみ) 定休日 なし 席数 36席(カウンター8席・テーブル28席) 駐車場 コインパーキング 36台完備(※満車の場合は近隣駐車場ご利用ください)







